202309/29
「介護うつ」という言葉を聞いたことはありませんか?
近年、高齢化がますます進み、「介護」はごく身近なテーマになりつつあります。
介護に疲れ、哀しい結果を迎えてしまう…そんなニュースも、残念ながらよく耳にします。
身内の介護が必要となったとき、介護する側もなるべく体に負担をかけず、精神的にもポジティヴに向き合えることが理想ですが、現実はなかなかそうもいきません。
本記事では、介護疲れからくる「うつ」とはどのようなものなのか、その症状や原因から対策にいたるまでを解説していきます。
セルフチェック項目も設けていますので、「もしかしたら自分も…?」と少しでも身に覚えのある方は、ぜひそちらも確認してみてください。
冒頭でお話した「介護うつ」とは、介護を原因としたうつ病のことです。
身内などを介護している方が、肉体的にも精神的にも大きな負担を抱え、脳のエネルギーが不足してしまう病気を指します。
介護は力の要る作業も多く、また、精神面においても緊張感や疲労感を伴うものです。
自分でも気付かないうちに疲れが蓄積し、いつの間にかうつ病が進行していた…ということも少なくありません。
介護疲れによる「うつ」を見逃さないようにすることが、何より重要です。
WHOが2023年5月に発表した「2023年版世界保健統計」によると、男女の平均寿命が長い国は、84.3歳で日本がトップでした。
また、同統計による「健康寿命」の男女平均年齢は、日本においては74.1歳です。
厚生労働省によると、我が国の75歳以上人口の割合は、2030年には5人に1人、2055年には4人に1人にもなると見られています。
少し前の資料にはなりますが、厚生労働省の「平成22年国民生活基礎調査の概要」によると、介護者から要介護者に対しての日常生活における悩みやストレスが「ある」と答えた人は、全体の6割越えにものぼりました。同資料において、悩みやストレスの原因を見てみると、男女共に「家族の病気や介護」を原因とするものが全体の7割を超え、トップを占めています。
以上の資料から、日本は世界的に見て平均寿命は長いものの、健康寿命との間に10年の差があり、さらには介護者の多くが要介護者に対してストレスや悩みを抱えていることが読み取れます。
参考:平均寿命 世界ランキング・国別順位 2023年 UNFPA版|MEMORVA
参考:健康寿命 世界ランキング・国別順位 2023年 WHO版|MEMORVA
参考:令和5年版高齢社会白書(概要版) 第1章 高齢化の状況|厚生労働省
参考:平成22年国民生活基礎調査の概要 同居の主な介護者の悩みやストレスの状況|厚生労働省
介護疲れによるうつの症状としては、どのようなものが挙げられるのでしょうか。
ここでは、初期、中期、末期と3つの段階に分けて、介護うつの症状を解説していきます。
介護うつの初期症状としては、食欲不振や睡眠障害、疲労感、倦怠感などが見られます。
それだけ?と思われた方もいるのではないでしょうか。
この程度の症状ならば、日常で感じる疲れやストレスの1つとして見過ごされてしまいがちです。
しかし、これらは介護うつの第一歩です。この段階で病院にかかるなど対処することで、比較的早くに症状は改善します。
まずは「気付く」ことが大切です。
介護うつの中期症状としては、不安感や焦燥感、気分の落ち込み、周囲への関心のなさ、神経過敏などが挙げられます。
常に不安や心配がぬぐえない、何もしたくない、ちょっとした物音がやけに大きく聴こえ気に触る…これらの症状があらわれたら要注意です。
この段階になると、一刻も早い対応が必要といえます。
介護うつの末期症状としては、思考障害や自殺願望などが見られます。
何か考えようとしても考えがまとまらなかったり、些細なことも判断できなかったり、つじつまの合わない発言をしてしまったり…といった症状があらわれたら、かなり進行が進んでいるといえるでしょう。
また、「自分なんていないほうがいい」「消えてしまいたい」などの考えが出てきたら、かなり危険な状態です。
この段階になったら、通院や入院はもちろん、日常生活においても誰かの付き添いが必要となります。
介護うつの段階的な症状をお伝えしましたが、先述したとおり、初期ではなかなか気付けないものです。
そこで、介護うつのセルフチェック項目をご用意しました。ぜひ、チェックしてみてください。
このうち4つ以上当てはまる方は、介護うつの傾向があります。
当てはまる項目が多ければ多いほど症状は重く、一刻も早い対応が必要です。
参考:うつ病・支援マニュアル(改訂版)|厚生労働省
参考:【セルフチェックつき】在宅介護の4人に1人が軽いうつ状態!?予防のためにできること|mi-mollet
では、介護うつの具体的な原因はどのようなものなのでしょうか。
介護うつを取り囲む要因はさまざまあり、これだけを取り除けば大丈夫!というものではありません。
「身体的」「精神的」「経済的」と3つの観点から、介護うつの原因を探っていきます。
介護は、大変な重労働です。
1日をとおして要介護者の食事やトイレ、入浴など日常生活をサポートする介護者は、身体的な負担が大きくなってしまいます。
夜間のサポートがあったり、自身が外で働いていたりするとなおさら、慢性的な睡眠不足にも陥りやすく、体力を消耗してしまうでしょう。
また、はじめにご紹介した厚生労働省の「平成22年国民生活基礎調査の概要」において「同居の主な介護者」を見てみると、女性が69.4%と割合が多くなっています。
女性の力では、要介護者を持ち上げたり支えたりという動作も、容易ではありません。
そのような過労の積み重ねによって、介護うつにつながってしまうのです。
参考:平成22年国民生活基礎調査の概要 主な介護者の状況|厚生労働省
介護は、長期化することが多いものです。
介護者は、なかなか先の見えない状況に、いつまで続くのだろう?という不安などが付きまとい、精神的な負担を抱えてしまいます。
要介護者が認知症の場合、献身的な介護をしても、罵声を浴びたり暴力を振るわれることもあり、虚無感を感じてしまいがちです。
また外で働いている場合は、介護を理由に仕事を休んだり、遅刻・早退が必要になったりということも考えられ、そのことを負い目に感じてしまうことも少なくないでしょう。
そうなると、さらなる精神的負荷を感じてしまいます。
介護は、想像以上にお金がかかります。
外部の介護サービスを頼れるなら、上で挙げたような身体的負担や精神的負担は軽減されますが、介護サービスを利用するにも相応の費用がかかってしまうものです。
その費用が捻出できない場合は、自身が介護をおこなうしかありません。
介護のために仕事を辞めたり休職したりということも考えられますが、そうすると収入が途切れてしまい、生活の困窮にもつながってしまうでしょう。
外出する費用や交際費などを抑えるために、誰かと会ったり気分転換したりする機会も減り、どんどん追い込まれてしまうことも想像できます。
介護のためにリフォームしたり、介護用品などを揃えたりしなければならず、その費用も必要です。
このように介護では膨大な費用がかさみ、それが原因で追い詰められてしまう方も多いのです。
症状や原因を確認した上で、「でも自分は大丈夫」と思っている方もいらっしゃるかもしれません。
そこで、介護うつに比較的なりやすい人の特徴をご紹介したいと思います。自身に当てはまるか、チェックしてみてください。
ただし、ここでご紹介するのはあくまで「なりやすい」人の特徴です。
当てはまらないから問題ない、などと過信せず、自身の心や体に耳を傾けることを意識しましょう。
真面目で几帳面な人や完璧主義な人は、介護においても完璧を求めてしまい、気を抜くことができません。
介護では、自分の組んだ予定通りに進まない、相手が想定通りにならないことも非常に多く、むしろそれが当たり前ともいえます。
しかし、真面目な人や完璧主義な人は、そのことに対して大きなストレスを感じてしまいがちです。
また、ちょっとしたミスや失敗に関しても必要以上に自分を責めてしまい、自分1人で不安や不満を抱え込んでしまうことも多いでしょう。
自分のことよりも介護を優先してしまう、というのも真面目な人や几帳面な人に見られる特徴であり、介護うつにつながりやすいです。
「責任感の強さ」という本来なら長所ともなる点も、介護うつにおいては注意すべき特徴です。
責任感が強い人は使命感も強く、誰にも頼らずに1人で全てを抱え込んでしまう傾向があります。
多少疲れを感じていても「自分がやらなければ」という気持ちが先行してしまい、必要以上に負担を背負ってしまうのです。
責任感が強い人は、介護を「義務」と捉えがちで、そこからなかなか抜け出せません。
気が弱い人は、相手や周りからの要求に対して断ることができず、負担を抱え込んでしまうでしょう。要介護者からの要望を全て受け入れてしまい、自分を追い込んでしまうのです。
また、相手の気持ちに敏感な人は、先回りして心配してしまったり、気を遣い過ぎてしまい、疲れてしまいます。
自分がおこなっている介護に対して、「今のやり方で大丈夫だったろうか?」「相手は嫌な気持ちにならなかっただろうか?」と考えてしまうことも少なくありません。
仕事と介護とを並行しておこなっている場合は、「職場に迷惑をかけているのではないか」ということも気になってしまい、大きなストレスを抱えてしまいます。
身近に頼れる人がいない場合、誰かに相談したり弱音を吐いたりすることができず、自分1人で悩み苦しんでしまいます。
介護も分担できず自身がすべてをおこなうことになるため、精神的負担はもちろん、身体的負担も非常に大きいです。
加えて、周りから「様子がおかしい」と気付かれる機会も少ないため、知らないうちに介護うつが進行してしまう可能性もあります。
いざ介護うつになってしまうと、病院に通い認知行動療法をおこなったり、投薬治療をしたりといった治療が必要です。
治療を開始してもすぐに寛解するわけではなく、多くの時間を要します。
大切なのは、「未然に防ぐこと」です。
介護うつにならないために、日常から気をつけられることを、最後にご紹介します。
介護は365日休みなくあるものですが、時々は介護から離れ、自分のためだけに使う時間をつくりましょう。
旅行に行く、買い物や美容院に出かける、映画を観に行く、趣味を思い切り楽しむなど、自分が心地よいと思える時間を意識してつくることをおすすめします。
とくに趣味ややりたいことがないという方は、音楽を聴きながら近所を散歩したり、カフェでゆったりとコーヒーを飲んだりというのもよいでしょう。
少しでも介護のことを忘れられる時間があるだけでも、随分と違うものです。
介護においては、「周りを巻き込む」ことも大切です。
先の見えない介護は、自分1人で抱え込んでしまうとどんどん追い込まれてしまいます。
どんな些細なことも、家族や友人に吐き出せるような環境をつくっておくとよいでしょう。
相談だけでなく介護の分担もできれば、身体的負担、精神的負担は共に大きく軽減されます。
「介護うつになりやすい人の特徴」でもお伝えしたとおり、完璧主義は介護うつにつながる危険な要素です。
すべてを完璧にこなそう、しっかりとやり遂げようなどと思うことで、自分をどんどん追い詰めてしまいます。
「完璧にできなくて当たり前」「少しくらい失敗しても大丈夫」と、おおらかな気持ちで介護に臨むとよいでしょう。
「できない自分」や「ダメな自分」を許し、愛してあげることも大事です。
食事や睡眠は、健康な心身をつくる基本です。睡眠不足は、うつ病のリスクを高めます。
そのため、睡眠は意識してしっかりと取るように心がけましょう。
夜間の介護が必要な場合は、昼間の隙間時間を利用して昼寝をする、要介護者の眠剤服用について主治医に相談してみるなど、睡眠時間を確保できるような工夫をしてみてください。
また、食事のバランスは、うつ病に大きく関係します。タンパク質の不足は、うつ病に影響するセロトニンなど神経伝達物質の不足にもつながり、心身のバランスを崩しかねません。
日々の食事をバランスよく、またなるべく決まった時間に摂ることも重要です。
自分だけで抱え込まず、介護サービスを上手に利用しましょう。介護保険の適用によって安く利用できるサービスはさまざまあります。
半日~1日の通所系サービス、数日間のショートステイ、ホームヘルパーなど、自身や要介護者の希望に合わせて使い分けるとよいでしょう。
また、家事援助や福祉用具の利用サービスなどもあります。
介護保険の適用となるもの、保険外のものなど、それぞれ手続きや利用方法なども異なるため、自治体や地域包括支援センターに相談してみましょう。気軽に教えてもらえます。
ケアマネージャーやソーシャルワーカーへの相談もおすすめです。
高齢化が進み人材不足が叫ばれる日本においては、「介護」は最も身近なテーマの1つです。
介護は身体的にも精神的にも、さらには経済的にも大きな負担を伴い、時に介護者を追い込みます。
介護うつは決して対岸の火事ではありません。私たちのすぐ隣に存在するものです。
しかし、その要因を知り、予防策を意識するだけでも、この先の状況は大きく変わります。
この記事が、前向きな介護につながる一助となれば幸いです。
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