202601/07
高齢者は、わずかな段差や短い移動でも思いがけない事故につながることがあります。その防止策として有効なのが「手すりの設置」です。今回は、介護保険の住宅改修制度を利用して、手すりを取り付けた世帯の事例をご紹介します。
今回ご紹介するのは、80代女性のAさんの事例です。Aさんは、ご自宅で生活していたものの、室内での転倒が目立つようになりました。これを機に、ご家族は階段や廊下への手すりの設置を検討。
介護保険の住宅改修制度を利用して、2025年7月に無事手すりを取り付けました。工事後、Aさんは生活の質が向上し、家事にも前向きに取り組めるようになったといいます。まずは、工事前のお悩みについて伺いました。
――まずは、手すりを必要とされた方について教えてください
80代の女性です。夫婦2人で自宅での生活を続けていましたが、ふらついたり、室内で転倒したりする頻度が増えるようになりました。そこで、父が2025年7月に要介護認定を申請し、要介護2の認定を受けました。なお、手すりの設置は、要介護認定を受けた直後に行っています。
――手すりを設置しようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
本人の生活の質が下がり始めたことがきっかけです。自立歩行はできるものの、歩行が不安定で、絨毯の角などでつまずいたり、転倒したりすることがありました。また、ちょっとした段差や、家具を避ける際に体幹がぐらつくことも。そこで、自宅での様子を見ていたところ、壁伝いに移動すればまだ安全だと分かったため、「手すりがあればもっと安心できるのでは?」と考えました。
――室内での生活の改善のためには、福祉用具を利用される方も多いかと思います。改修前に、福祉用具は使っていましたか?
改修前はまだ要介護認定を受けていなかったこともあり、特に利用していませんでした。ただ、生活の様子を見ていて、「もっと安心して移動できるようになる方法はないだろうか」とは以前から考えていました。
――今回、手すりを設置した場所を教えてください。
階段・玄関・廊下の3箇所です。以下、設置前の状況を写真と共に紹介します。
■階段

踊り場部分で手すりが途切れてしまうため、支えがなく、昇り降りのたびに不安定さを感じていました。そのため、2階へ上がる頻度が減っていきました。
■玄関

玄関から居間へは頻繁に行き来が発生するのですが、居間へ至る扉の開閉の際に扉脇の壁に手をついて、ドアハンドルを操作していました。態勢も不安定で、扉にも負担が掛かっていました。
■廊下

廊下は平たんで障害物はありません。しかし、つかまるものもないため、歩行時に体のバランスを崩し、転倒することがありました。ある日、壁を触りながら伝い歩きする姿を見て、「手すりがあれば安定するのでは?」と思ったのです。
――手すりを設置する場所はどのように決めましたか?
手すりの設置を検討し始めた頃から、意識的に母の日常の動作を観察しました。そして、本人が頻繁に利用する場所や、滞在時間が長い場所を選びました。また、玄関など比較的広い空間で、支えになるものが存在しない場所も候補に入れました。
介護保険の住宅改修制度を利用して、手すりを設置したAさんご家族。では、どのような手順で手すりを取り付けたのでしょうか。住宅改修制度の概要を含め、ご紹介します。
要介護者(要支援1~2、もしくは要介護1~5)が自宅を改修する際に、住宅改修費の9割相当額が償還払い、もしくは受領委任払いで支給される制度です。ただし支給額には上限があり、20万円を超える工事は一律18万円の支給になります。
【償還払いとは】
利用者が工事費用の全額を施工業者に支払い、その後、支給対象となる工事費用が利用者に支払われる方法
【受領委任払いとは】
利用者が工事費用の自己負担額を施工業者に支払い、その後、支給対象となる工事費用は介護保険から施工業者に支払われる方法
主な改修箇所
〇手すりの取付け
〇段差の解消
〇滑りの防止及び移動の円滑化等のための床又は通路面の材料の変更
〇引き戸等への扉の取替え
〇洋式便器等への便器の取替え
参考
https://www.mhlw.go.jp/general/seido/toukatsu/suishin/dl/07.pdf
介護保険の住宅改修を行う際は、事前に申請が必要です。申請については、担当のケアマネジャーや地域包括支援センターに相談してみましょう。
――介護保険の住宅改修制度は、以前からご存じだったのでしょうか。利用しようと思ったきっかけを教えてください。
地域包括支援センターで教えてもらったのがきっかけです。「この制度が利用できるなら、設置費用を軽減できる」と思い、利用を決めました。
――介護保険の住宅改修制度を利用するまでの流れはいかがでしたか。
要介護認定を受けたあと、父が担当のケアマネジャーに相談し、子である私が工務店を決めました。工務店に作成いただいた住宅改修プランにを担当のケアマネジャーに共有し、「住宅改修が必要な理由書」を作成いただきました。それを役所へ申請し、住宅改修の施工許可が下りました。
――施工会社はどのように決めましたか?
地域密着の施工業者にしようと決めていました。そのなかでも、「手すり工事の実績を有している」「問い合わせた際の対応がしっかりしており、質問に的確な回答が返ってくる」「担当者からの連絡が迅速である」の3つの要素を満たしている業者に決めました。
――施工会社との打ち合わせの回数、内容について教えてください
施工会社との打ち合わせは2回です。それぞれの内容は、以下の通りです。
【1回目】
施工会社の担当者さんが家に来てくださり、手すりの設置個所と、設置する手すりの種類を決めました。その際、下地の有無なども簡単に確認していただきました。
【2回目】
部材を発注いただいた後、工事日程のすり合わせを行いました。
――工事に入る前、不安はありましたか?
詳しい打ち合わせをする前は、「手すりを取り付ける場所はここで本当に良いのだろうか」「工事の期間が長くなるのでは?」と不安でした。ただ、しっかりとサポートしてくださったうえに、実際の工事は2日間と短期間だったので、実際には特に不便なことはありませんでした。
――施工会社に頼んでよかったこと、安心できた点を教えてください。
下地の策定や、手すりの最終的な取り付け位置を決める際に、逐一こちらの意見を聞いてくださったことです。手すりの設置を予定していた位置に照明のスイッチがあったのですが、担当者さんが使いやすさを最優先にして、握りやすく、邪魔にならない配置を一緒に考えてもらうことができました。
また、施工時における不明点について、積極的に質問してくださったことも、安心できた点の一つです。反対に、こちらからの質問にも的確にご回答いただけました。
――実際に、どのような手すりをつけましたか?設置場所を含めて詳しく教えてください。
階段・玄関・廊下に、それぞれの高さに合った手すりを設置しました。
■階段

急な階段なので、最後までしっかり手すりを持って上り下りができるようにしています。手すりの設置により、階段に手をつくことがなくなりました。
■ 玄関

玄関から居間へ至る扉の開閉時に、扉横の縦手すりにつかまって、しっかり体を支えながらドアハンドルの操作ができるようになりました。ふらつくこともなく、また必要以上にドアハンドルに負荷が掛かることもありません。さらに手すり横の電気のスイッチの操作時にも支えになり、安心感があります。
■廊下

長さが十分にある手すりなので、廊下の移動が安定しました。また、転ぶ回数が減りました。
介護保険の住宅改修制度を利用し、手すりを設置したことで、Aさんの生活はどのように変わったのでしょうか。設置後の変化について聞きました。
――住宅改修後、ご本人の生活に変化はありましたか。もしあれば、具体的に教えてください。
一番変わったのは転倒回数です。ほとんど転ばなくなりました。また、手すりの導入前は移動に不安があった場所でも、支えがあることで行動にためらいが無くなりました。歩行が安定し、1人でもトイレや洗面所に行けるようになったのは嬉しい変化です。本人も自信がついたようで、日中の活動時間が増えました。
――ご家族からみて、住宅改修を行ってよかったと感じていますか?
よかったです。階段・玄関・廊下に手すりがついたことで、家族の見守りがあまり必要なくなり、介護する側の負担が減りました。また、行動量が増えたことで、体調が改善しただけでなく、家事への積極的な関わりも増えました。毎日嬉しそうに暮らしている母の姿を見る度に「改修工事をやってよかった」と思います。
最後に、住宅改修を検討している方へのメッセージをいただきました。
――介護者のなかには、住宅改修をためらっている方もいらっしゃるようです。最後に、改修を検討している方へのメッセージをお願いします。
住宅改修をためらう理由は「室内の景観や内装が変化してしまう」「介護保険の改修制度を利用するための手続きが煩雑で面倒だ」の大きくこの2点だと思います。しかし、実際に改修工事を行ってみると、景観の違和感よりも、安心感の方が勝りました。また、手続きもケアマネジャーを中心に進めてくれるため、家族の負担は思うほどではなかったです。
家族としては、安心・安全に笑顔で暮らせること、生活の質が向上したことが何よりも嬉しいことです。手続きが煩雑に思えるかもしれませんが、改修したい場所の検討や、施工業者の選定まで終えたら、あとはプロフェショナルの手をお借りすることができるので、不安に思う必要はありません。ぜひ住宅改修を検討してみてください。

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